千島列島の地理的状況と自然条件

<地理的条件> 

 

 千島列島はサハリン州に含まれる。この州はロシアで唯一、島状の州である(Atras Sakhalinskoj oblasti(サハリン州地図), 1967)。千島列島は北日本(北海道)からカムチャツカ半島の南端(ロパトカ岬)まで、南西から北東に北緯43°26′−50°55′、東経145 °24′−156 30′の間に広がって、オホーツク海を太平洋から分けている(図1)。列島は水深の浅い南千島海峡により、小千島列島と大千島列島の2つの部分に分かれる。
 小千島列島は長さ約100kmで、北海道の根室半島から幅約8kmの浅いソヴェツキー海峡により分かれる。小千島列島にはAnuchina (秋勇留), Tanfiljeva (水晶), Yuri (勇留), Diomina (春苅), Zelyonyi (志発), Polonsky (多楽), Oskolki (海馬), Shikotan (色丹)の各島が含まれる。色丹島の北東は、この列は水面下の海嶺ヴィーチャシとしてほぼカムチャツカ南端まで辿ることができる。
 大千島列島は長さ約1250kmで、小千島列島と平行に伸び、(北海道)知床半島からは国後海峡によって、カムチャツカ半島からは第一千島海峡によって隔てられている。深さ2000mまでとそれ以上のブッソル海峡・クルゼンシュテルン海峡によって、大千島列島は南・中・北の3つの部分に分けられる。南のグループは3つの大きい島:国後、択捉、ウルップと小さい火山島、黒い兄弟(チルポイとブラットーチルポエフ)、ブロウトンを含む。中のグループはシムシル、ウシシル(ヤンキチャ、ルィポンキチャ島)、ラシュア、マトゥア、ライコケや個々の岩崖が含まれる。北のグループにはロブーシキ、チリンコタン、エカルマ、シャシコタン、ハリムコタン、オネコタン、マカンルシ、アンツィフェロヴァ、パラムシル、シュムシュ、アトラソヴァが含まれる。列島の陸の総面積は約10,200km2で、そのうち約9,800km2が大千島列島の分に相当する。もっとも大きい島々の面積はTable 1に示す(原文p.10)。

<地形> 

  

 地形とその地域の緯度が、千島列島の植物相の構成や、標高による植生の多様性に本質的に影響を与えている。小千島列島の島々は浸食作用(denudation)-地殻変動(tectonic)型の地形により特徴づけられる。色丹島のノトロ、トマリ山は新生代の死火山の地形であり、古い時代(白亜紀上層のようである)の火山生成による(Korsunskaya, 1958; Gorshkov et al., 1964)。小千島列島最大の色丹島は高さ200−250mの低山・丘陵地形によって特徴づけられる。色丹島の標高最大値(色丹山)は412.6mである。同じ小千島列島の他の島々は海面から約20m、という平坦な表面を示す。強風に吹き付けられるため、小さい島には木本形の植物が無く、草本・矮小木本の植生が広く発達している。時にそれらの場所は沼地になっている。
 大千島列島の島々には、第四紀以前の堆積基盤で、いろいろな高さになった火山性構造をもった火山−地殻変動的地形が広がっている。この地形は、国後、択捉、ウルップ、シムシル、オネコタン、シャシコタン、パラムシルといった、列島の大きな島々の大部分に特徴的である。火山地形は中〜北千島の多くの小さい島々に特徴的であり、火山構造を示している。黒い兄弟、ブロウトン、ケトイ、ラシュア、ライコケ、エカルマ、チリンコタン、マカンルシ、アトラソヴァ、他である。海食(abrasion)・堆積(accumulation)地形はシュムシュとパラムシルの一部、大千島列島の他の大きな島のみに特徴的である。シュムシュには火山構造は見られない。千島列島では氷河地形も限られており、主にモレーン堆積を伴う深いU字谷がみられる。最もよく表れているのがパラムシル島で2回の第四紀氷河の跡がみられる(Vlasov, 1958; Gorshkov et al., 1964; Chemekov, 1972)。大地島列島のその他の島々にも氷河の跡が指摘されている(Kanaev, 1960; Zhelubovsky, Pryalukhina, 1964)。
 高度と地表の分割の程度について、T. V. Korsunskaya (1958)は千島列島を山地、丘陵地、平地の地形タイプに分けている。最も広く発達しているのは、標高300〜2,000mの山岳地形である。山岳地形は、高山(2,000m以上)、中山(1,000−2,000m)、低山(300−1,000m)に分けられる。
 高山地形は発達が極めて限られている。このタイプには標高2,339mのアトラソヴァ島の火山アライド山のみが当てはまると思われる。
 中程度の山は大きい島すべてと小さい島の一部に広く分布している。国後、択捉、ウルップ、シムシル、ケトイ、エカルマ、ハリムコタン、オネコタン、マカンルシ、パラムシル、である。このカテゴリーに個々の火山構造も含まれる;国後のチャチャ岳(1,822m)、ルルイ岳(1,486m)、択捉のベレタルベ(1,222m)やアトソヌプリ(1,205m)、シムシルのミルナ岳(1,526m)、プレヴォ山(1,261m)、ケトイのケトイ山(1,172m)、マトゥアのサルィチェヴァ(1,497m)、オネコタンのクレニツィナ(1,327m)、ネモ(1,019m)、パラムシルのフッサ岳(1,772m)などである。さらに火山山脈や火山群もある。火山山脈としては、ボガトィリ、グロズヌィ(択捉)、クリシトフォヴィチ、ピョートル・シュミット(ウルップ)、カピタンスキー、ヴェルナツキー(パラムシル)がある。それらの最高地点はストカップ火山(1639m)、テベンコヴァ火山(1212m)、イヴァオ火山(1426m)、シュミット山(1031m)、チクラチキ火山(1815m)、コズィレフスキー火山(1160m)である。火山群は択捉(メドヴェジェイ・カルデラ付近)、ウルップ(コロコル火山群)に明瞭にみられる。低山地形には強く分断され、第三紀火山起源の土壌が堆積した山脈:国後(ドクチャエヴァ山脈)、択捉(ボガティリ山脈北部)、ウルップ(ピョートル・シュミット山脈の南西支脈、ショカリスキー山脈の東北端)、パラムシル(レヴィンソンーレッシング山脈とヴェルナツキー山脈の南西部)が含まれる。同じ低山地形のカテゴリーに、小島の多くの火山構造が含まれる:チルポイ(661m)、ブロウトン(800m)、ウシシル(401m)、ラシュア(956m)、ライコケ(551m)、チリンコタン(742m)、シリンキ(761m)。また、大きい島の個々の火山も含まれる。
 丘陵地形は国後、択捉、ウルップ、パラムシルの孤立した場所で見られ、100〜300mの海岸段丘によって激しく分断されている。
 平地地形には、海岸段丘、古代の平坦化された表面、溶岩台地、地峡、沖積層、沿岸平野が含まれる。海岸段丘の幅は数十mから5−7kmまでで、太平洋沿岸で幅広い(択捉を除く)。多くの島では幅15m未満の海岸段丘が発達し、それは時にオホーツク海岸から太平洋岸まで島全体につながっていて、低地峡を形成することがある(例えば択捉のヴェトロヴォイ地峡)。それらはよく大丸石ー礫岩の海岸平野に変わり、大きな川の河口部では沖積平野に変わる(パラムシル島のシモユル川・トゥハルカ川水域)。これらの平坦な低地地形は、G. M. Vlasov (1964) の意見によると最終海進により形成された、という。
 研究者の大部分(Korsunskaya, 1958; Vlasov, 1959, 1964; Goryachev, 1960; Nikoljsky, 1964; Sergeev, 1966他)は、大千島列島のすべての大きな島々に古い時代の表面浸食の発達を認めている。平坦表面の中でも最も標高の高い、高さ700−900mの地点は大千島列島の両端の島々(国後、択捉、パラムシル)で見られ、中央部ではかなり低くなる(Vlasov, 1959; Goryachev, 1960)。火山(溶岩)台地は古い時代の平坦化表面や海岸段丘への溶岩流や溶岩の覆いの跡が崩壊せずに残ったものである。
 島々の地峡の地形は面白い。多くの場合、それらは断層で区切られ、垂直な地溝に形成され、もろい沖積−海成層で満たされている(Sergeev, 1976)。さらに特徴的なのは沖積地峡(アトラソヴァ島のタケトミ火山)やトンボロ(陸地と島の間の砂州)型堆積で、それにより個々の火山体が島塊につながっている(択捉のアトソヌプリ火山)。
 千島列島の地形の特徴は主に、現在もまだ活動中の火山・テクトニクス的要因により決まっている。火山プロセスは、少数の例外(カルデラ形成・湾の形成)を除くと、島の陸地部分の拡大をもたらすが、テクトニクス的要素は創造という形にも海底地形の破壊という形にも表れる(Sergeev, 1976)。千島列島には、85の火山があり、うち39が活火山である(Gorshkov, 1957, 1967; Gorshkov et al., 1964)。活火山には、アトラソヴァ島のアライド山、パラムシルのエベコ、チクラチキ、フッサ山、オネコタンのネモ、クレニツィナ山、マトゥアのサルィチェヴァ山、ウルップのコロコル山、択捉のカムイ、イワン グロズヌィ、アトソヌプリ、ベレタルベ山、国後のチャチャ、メンデェエヴァ山やその他多数が含まれる。

<地学的構造>

 

 千島列島の地学的構造で重要な位置を占めているのは、新生代の、主に新第三紀と第四紀の土壌で、古第三紀、白亜紀後期の構造はかなり少ない(Geologya SSSR, 1964; Zanyukov et al., 1967; Kamchatka..., 1974; Sergeev, 1976)。
 白亜紀後期の地層は小千島列島からのみ知られており、2つの累層に分かれる。下層がマタコタン層、上層が小千島層である。露出層の下部には玄武岩、安山ー玄武岩からなる粗い砕屑岩ー礫岩、砂利、砂岩が堆積する。球状溶岩の間層が特徴的であり、成分は変性した玄武岩、時に安山岩である。小千島列島の累層は典型的な陸生堆積層で、層(sloinostj)が明瞭であり、主に火山灰起源の砂岩とシルト岩(alevrolite), 泥岩(argillite)が交互に重なる。色丹島のクラボヴァヤ湾では、石灰岩性砂岩と石灰性セメントを含んだ凝灰角礫岩(tufobreccia)のかなりの数の層がみられる。
 小千島列島の分断されていない古第三紀の地層は仮に分けられている。これらには、安山玄武岩、安山岩、安山岩性石英安山岩(dacite)の溶岩層に、同じ成分の塊状化した(aglomerative) 角礫岩を含んだ火山起源のsubaeralな地形が相当する。
 千島列島の新第三紀の地層は4つの系列に分けられる。中パラムシル層(中新世下部)、クリル層(中新世下部〜中部)、択捉層(中部−上部中新世)、ウテス層(上部中新世−鮮新世)である。
 中パラムシル系の噴出性・火山灰起源の土壌は千島列島の南北に広く広がっている:国後、択捉、ウルップ、パラムシル、シュムシュ、である。この土壌の特徴は、塩基性ー中性の溶岩・火山灰が主であること、Propilitzation (黄鉄鉱化?)がほぼ全域で起こっていること、激しい地層変異(dislotsirovannnostj), 主に斑レイ岩−閃緑岩や閃緑岩を成分とした貫入塊が多く見られること、である。この系の下部は交互に重なった粘土層、泥岩, シルト岩,砂岩となっており、その上部に溶岩、火山灰ー輝緑岩, 曹長石玄武岩(spilite), 石英安山岩(dacite)-石英斑岩の多層からなる火山起源の土壌が堆積する。これらの層は”グリーンタフ”の系列に相当する。
 玄武岩礫岩を基盤とした中パラムシル層の上に堆積したクリル層は主に砂岩、シルト岩, gravelliteと、泥灰石opokの層からなる。上部の水平線には流紋岩, 石英安山岩(dacite)性火山灰や同じ成分の粒の細かい角礫岩の層が表れる。
 択捉層は、火山灰起源の堆積土壌が特徴的であり、いろいろな火山灰角礫岩、火山灰礫岩、砂岩、シルト岩があらわれる。これらに特徴的な火砕性物質の含まれる白っぽい火山灰岩、火山灰起源の砂岩は、主に陸性物質と混ざり合った火山灰である。上部には溶岩角礫岩、玄武岩・安山岩性の溶岩、火山灰で礫岩、泥灰石のレンズlinzを伴う層がみられる。ウテス層に相当する上部新第三紀の地層は、択捉、パラムシルとおそらくウルップに幅広く発達する。この層は、大千島列島の国後その他の島にも多く広がっている可能性があるが、そこでは、それらはまだ第四紀の地層と区別されていない。この層の下部層は軽石を含んだ砂岩や泥灰石opok, 火山灰岩、火山灰の層を伴うgravellitである。場所により(国後島南部)流紋岩, 石英安山岩(dacite)の角礫岩に同じ成分の溶岩層が表れている。上部は礫岩、角礫岩、玄武岩、玄武安山岩、安山岩、時に安山ー石英安山岩が堆積している。
 千島列島の第四紀の火山形成としては、溶岩台地、活火山、死火山がある。それらは海層の中にも見られ、多くの島々において地形の沈降部という役割を担っている。火山物質は多様性が大きいことで特徴的であるが、安山岩、安山玄武岩、安山ー石英安山岩が優越している。軽石が多く、玄武岩はやや少なめである。G.S. Gorshkov et al. (1964)のデータによると、氷河期以前にすでに活動を終えた寄生火山であるヴェトロヴォイ火山(パラムシル島)の活動産物は、micro-doleriteの塩基性基質に斜長石、かんらん石、単斜輝石(monocline augite)の大きい斑の入った塩基性玄武岩である。これは、千島列島に知られる主要な溶岩の1つである。ヴェトロヴォイ火山やその周辺には、塩基性土壌を好む マメ科のOxytropis, Astragalus属の種のいくつかがみられる。ここにはOxytropis revoluta, O. pumilio, O.exserta, Astragalus alpinus, A.frigidusや外来種のAstragalus danicusまでみられる。南千島の軽石露頭では植物相の構成が貧弱で単純なことで際立っている。
 千島の第四紀系の陸性堆積構造は沈降地形、谷、川の流域に発達している。それらは、砂、小石、ローム質土壌, 泥炭といった脆い土壌として堆積している。それらの起源は海岸・河岸段丘、河川の流域、潟・湖沼の底の堆積物、沿岸の砂丘の堆積物である。
 貫入(Intruzivnye)土壌は千島列島の最大級の島々にかなり広くみられる。それらは時代と分布によって2つのグループに分けられる:小千島列島の後期白亜紀または新第三紀の貫入と、大千島列島の新第三紀の貫入である。
 最初のグループには、小千島列島にみられる、白亜紀時代の準アルカリ性(subalcalic)土壌が相当する。それらは厚さ数mから100−150mまでのsillとなり、カンラン石のesseksit-dolerit, trakhidolerit, trakhibasalt、montsonit, avginovye sienitとして堆積する。色丹島にはshtok, dike(岩脈), plastovyjの形で堆積した斑レイ岩性のものも知られており、それらが白亜紀の地層を覆っている。その堆積物の中には、斑レイ岩ーnorit, カンラン石性斑レイ岩ーnoritが目立つ。斑レイ岩ーカンラン石、anortozite, diort,他の石質もみられる。
 大千島列島の新第三紀の特徴はそれらの貫入周辺が強い熱水変性を受けている(chlorisation, sericisation, 石英化他)ことで、かなりの面積に広がっている場合もよくある。これらは仮に4グループの貫入複合体に分けられる。
 下部中新世複合体は準火山性である。貫入体は細かいshtok, dike(岩脈), 時にsillとなっている。その堆積には、輝緑岩, 斑レイ岩ー輝緑岩, flerite, dacite性porfiryや花崗岩斑岩が加わっている。これらの岩質はかなりprolitisation化されている。中新世中期の貫入岩質は貫入体の構成としては多くの相がまだらになったもので、斑レイ岩ー閃緑岩、石英閃緑岩、斜長花崗岩、花崗岩斑岩や石英斑岩から構成される。これらの岩質の大規模な露頭が国後、ウルップ、パラムシル各島にみられる。黒雲母花崗岩として堆積した厚い岩脈(dike)がシャシコタン島に露出している。上部中新世の貫入岩質はanortozit, anortozit-diabazでできているが、それらはパラムシル島にしか露出しておらず、そこでは個別のshtoki, sillyとして見られる。鮮新世の貫入複合体はshtok, 岩脈, nekka, 錐、sillといった準火山構造体としてみられ、主に噴出性岩質が堆積し、玄武岩からrioriteまでの一連の系列を構成する。化学成分としては、パラムシル島の貫入岩質は国後の基盤で満たされており通常の系列に相当するが、後者???は粘土土壌で満たされている。

<水脈>

 

 降水量が多く、蒸発による湿度の損失が少ないこと、山岳地形があることにより、千島列島には多くの河川・渓流の形成が促進されている。大千島列島の大きな島々には、25−40の常流の河川がある。それらの多くは流れの速い山岳性河川で、多くの浅瀬や滝が見られる。最大級の川は、パラムシルのトゥハルカ川(長さ25km)、シモユル川(20km)、レヴァショヴァ川(15km)、コフモユリ川(12km)、ウルップのガリンカ川(12km)、ロプホヴァヤ川(9km)、択捉のクイヴィシェフカ川(23km)、クリールカ川(20km)、スラヴナヤ川(19km)、フヴォイナヤ(13km)、国後のチャチナ川(20km)、レスナヤ川(15km)、セレブリャンカ川(12km)である。太平洋岸の川はオホーツク側に流入する川よりやや長い。例外はウルップ島であり、この島では山塊は太平洋側にやや寄っている。大千島列島のすべての小さい火山島では、河川網はほとんど発達していない。水環境のない島々はアンツィフェロヴァ、チリンコタン、ライコケ、マトゥア、ヤンキチャ、チルポイ、ブラットチルポエフ、ヂョーミナ、ストロジェヴォイ、である。小千島列島の島々でも河川網はあまり発達していない。色丹島には5つの河川といくつかの渓流がある。最長の川ゴロヴェツ川の長さは8km未満で、幅3-7m、深さ0.3ー0.6mである。
千島列島の水源は主に雨水や雪・氷の解けた水で、部分的に湧水・鉱泉による。春の河川の水の水準はあまり高くならない。
千島列島には多くの湖(カルデラ、クレーター、ラグーン湖)や鉱泉がある。有る程度の大きさの湖は1000ぐらいあり、総面積100km2、浅い湖は非常に多い。湖の起源は非常に様々である。大部分はラグーン湖であり、大千島列島の大きい島々すべてと賞千島に知られており、水草の豊富さで際だっている。このような湖には、ボリショエ湖(シュムシュ)、ペルナトエ(パラムシル)、レビャージエ、ブラゴダートノエ、レソザヴォツコエ、ソーポチノエ(択捉)、ペスチャノエ、ラグーンノエ(国後)他がある。大千島列島の島々の大部分にはクレーター・カルデラ湖がある。これらの湖は通常深く(50?70m)、大気中の雨水や鉱泉による水の供給が混ざっている。これらの仲で最大なのは、オネコタン島のクレニツィナ火山のコリツェヴォエ湖(直径約6km、深さ200m以上)である。北方の島シュムシュ、パラムシルには氷河湖が豊富になる。ラグーン湖比較的大きいサイズでも水深が浅い(1?3m、稀に25m)。氷河湖は多くの場合サイズは大きくなく、浅く、部分的に乾燥している。

<気候>

 

 気候の特徴は、Vorobiev, 1963; V. Popov, 1966; Barabash, Lesevich, 1967; Spravochnik po klimatu SSSR (ソ連気候辞典), 1970, 第34巻、の文献に基づいている。
 アジア大陸の東端に位置する他の地域と違って、千島列島は中緯度のモンスーンの影響をあまり受けない。気候はかなり海洋性であり、緯度の割には厳しい気候である。長く続く冬、冷涼な夏、急変する天気は、寒冷なオホーツク海や太平洋の寒流である親潮(千島寒流)の影響である。気候状況は千島列島の植生の特徴・分布に本質的に影響し、植物相の種多様性に反映する。  (オホーツク)海・太平洋に接する水域の熱条件は、気候の形成に大きな影響を及ぼしている(V. Popov, 1966; Lamanova, 1967)。千島列島の中央部は最も水温が低い(6−8℃)。恒常的海流図によると、オホーツク海は、海水表面が環状に対流している。千島海峡を通ってオホーツク海側に太平洋の水が、また、宗谷海峡を通って日本海の水が流入する。太平洋の冷たい水が北・南千島海峡を通って流入し、それによって千島列島の中でも緯度の違う両端の地域間の気候の気温条件の違いが相殺されている。国後・択捉の気候には、宗谷海峡経由で日本海から流入する宗谷暖流(対馬暖流の支流)が有る程度影響し、この島々にMagnolia, Quercus, Tilia, Fraxinus, Hydrangea, Actinidia他の温帯性植物の生育を促進している。
 千島列島における日照条件は雲の状態に多く左右され、太陽の高さと日長と関連する通常の年間日照量よりかなり低い(40−60%)ばかりでなく、異常である。千島列島北部では年間日照量は80kcal/cm2、南部では約100 kcal/cm2である。月間最大量(10.8−12.8 kcal/cm2)は太陽の高さと日長が最大の6−7月ではなく、曇の日が少ない5月である。最大日照量が最小な時期は12月である。  千島列島の日照時間は多くなく(年間1000−1500時間)、大陸の同緯度諸地域よりも50−80%少なく、曇りがかなり多く、よく霧が出る。日照時間が最低の場所は大陸塊から最も離れたマトゥア、シムシル島(ラシュア、ケトイ、ウシシルといった他の中千島の島々も同様と考えるべきである)である。パラムシル、択捉、国後では(大きい陸塊に近いことから)日照時間は増大し、南にあることから択捉、国後では特に大きい。日照の無い日の数は、北・中千島の島々では年間105−118日に及び、南千島では80−89日である。
 千島列島の年間降水量は1000から1400mmまで変化する。降水は季節によりばらつく。冬場は夏期より2−2.5倍降水が少ない。降水量の最小の月は2月、最大の月は9月である。
 冬季 一日の平均気温が0℃を下回るのは北千島では11月10−20日頃、南千島では12月1−10日である。北・南千島の冬季の気温の差はあまり大きくなく、約2℃である。マイナス温度の合計は北千島では700℃、南千島で400℃である。最低気温は2月に観測される。月平均値は−8℃、−6℃である。北・中千島の最低気温は−26℃より下がらず(マトゥア島では−27℃)、南千島では−23℃より下がらない(ウルップ島では−21℃までである)。冬場には雪解け陽気がかなり多く、その場合気温は日によっては+8℃、+12℃まで上がることもある。
 冬には北西の風が優越する。最高風速は12月−2月に観測される。強風(毎秒15m以上)の吹く日数は130日から185日まで変化する。時に風は、特に島々のオホーツク沿岸で暴風(毎秒40m以上)となる。
 千島列島の冬の特徴は長期にわたって続く積雪である。北千島では冠雪は11月末に、南千島では12月初めに確立する。最大積雪量は3月に記録され、北千島では平均60cm、南千島では30cmと変化する。シュムシュ島では積雪は180日、国後では129日である。地形や強風により、積雪には偏りがある。雪は、風上の山の斜面や障害のない場所から吹き付けて風下の斜面や低い地形の場所に集まり、そういう場所では積雪の高さは4−5m、時に9mになることもある。場所により積雪はかなり長期にわたって解けない−6月、7月、8月初めまで解けないこともあり、そのまま解けずに雪氷として残ることが、特に北千島において頻繁に見られる。小千島列島では暖かく雪の量の少ない冬には積雪は長く続かない。
 特に北千島で継続的な強い吹雪が非常によくみられ、冬の厳しさを増している。吹雪の日数が最大の月は1月である。冬はアリューシャン付近の低気圧の活動のためかなり曇りの日が多い。
春季 千島列島の春は寒冷・多湿で、風や雨が多い。一日の平均気温が0℃より高くなるのは北・中千島では4月末、南千島では3月末である。雪解けは北では5月初め、南では4月初めである。
夏季 千島列島の夏季は冷涼である。最暖期である8月の平均気温は、北では+10℃、南では+16℃である。南北地域間の気温の違いは夏の方が冬より大きく、5−6℃の差がある。
    夏季の最高気温は北千島では26℃、中千島では28℃、南千島では32℃を越えない。無霜期の長さは北方では120日、南方では180日である。しかし年によって6月7月に最低気温が零下になることもある。
 夏季には千島列島では南東の風が吹くことが多い。平均風速は(冬季と比べて)低下し、月平均値は3−6m/秒である。
 プラスの気温の合計は北から南にかけて増加し、それぞれ1300℃と2290℃である。activnaya気温の総計は北部で550℃、南部で1500℃である。日平均気温は相殺される。
 千島は夏季に湿度が上がるという特徴がある。7−8月の月平均の相対湿度は90−97%である。夏季の湿度の高さによって霧がよく発生し長く続く。霧の日が月に25−29日となる場所もある。千島列島では霧によって、水条件の悪い崖や山頂の急な尾根にも植物が生育できる。7月、千島列島の日照時間は70−150時間(最大値の20−40%)の間である。日の照らない日の数が非常に多い(月に10−15日)。
秋季  千島列島では秋は最良の時期である。この時期には湿度が下がるため、霧の日数が急減する。風は北西の風が多くなる。冬への移行はゆっくり進む。
 千島列島は3つの気候区に分けられる。北千島(アトラソヴォからシャシコタンまで)、中千島(マトゥアからウルップ)、南千島(択捉から色丹)(A.I.Zemtsova, 1967)。北千島は冬は中千島より寒冷で曇りの日は少なく、夏は冷涼である。中千島で海洋性気候はもっともはっきりあらわれる。ここは、冬も(オホーツク海の凍っていない部分の影響により)夏も、雲が多く、霧が出やすい地域である。南千島の島々(択捉、国後)は、暖流の支流が打ち寄せている。ここは千島の気候区の中で、最も暖かく、夏も曇りは少ない。

<土壌>

 

 千島列島の土壌については主に南部の島々に関するごく一般的な知見しかみられない(Lashkov, 1948; Korsunskaya, 1948; Ivlev, Rudneva, 1967; Ivlev, 1982 他)。
 千島列島の低い海岸段丘や地峡、川・渓流の下流の谷には水はけが悪く湿地状になった砂質ーローム質の海堆積・沖積層の厚い層ができる。このような場所には主に泥炭ーグライ(粘土)質土壌が発達する。それらの特徴は灰分や酸性反応が低いことである。グライ化の過程は冷たいオホーツク海の影響と比較的降水量が多いという条件下で、熱水要素の影響の下に発達する。
 千島列島では、芝土状ー腐植土が多様な草本草原の下に形成され、山の乾燥泥炭状の、illuvialな、腐植土を含んだ土壌がハイマツの茂みの下に形成される。山岳ーツンドラ地帯、特に北千島では、低木林の下にツンドラ泥炭状土壌が形成される。
 千島列島の南部や、中部の一部で広がる土壌タイプは、山ー森林性の、腐植土の染みこんだ酸性灰色土壌(ポドソル)である(ダケカンバ林下、多くの場合ササに林下を覆われた場所)。千島列島南部の針葉樹林下には森林性・褐色酸性で、酸性灰色土壌(ポドソル)化しない(またはあまりしない)土壌が見られる。海岸の沖積砂にはポドソル質の土壌が形成される。ここは、水はけは良いが、生物群集は少ない。
 土壌の形成や形成過程において、島の生態系の中で強い影響を持つ2つの要因がある。火山起源のものと生物起源のものである(Ivlev, 1982)。火山起源の要因の役割は岩質を絶え間なく更新し、基本的な土壌形成過程を断片化することである。生物起源の要因の役割は、植物の高い生産性のおかげで、土の表面だけでなく多年生草本・低木の力強い根茎システムによって、土の内部まで有機的残渣が堆積することである。これらの要因は、土壌形成において、他の要因、特に熱水要因とともに総合的に影響する。火山起源の要因については、噴出灰の堆積がくりかえされた結果、明瞭な層の土壌が形成され、灰の層と埋没した腐植土層が交互に重なる。もろい構造と水はけの良さのため、降水はすぐにしみ通り易くなる。

<植生>

 

 千島列島の植生についてはロシアや外国の研究者の多くの仕事に含まれている(Tatewaki, 1928, 1929, 1931a, 1931b, 1933, 1957, 1958; V.Vasiliev, 1944, 1946; Lashkov, 1947a, 1947b; Yaroshenko, 1960a, 1960b; N. Popov, 1963a, 1963b, 1965; Efanov, 1962, Vorobjev, 1963; Manjko, Rozenberg, 1970; N. Vasiljev, 1970; Vasiljev, Rozenberg, 1977; Grabkov et al., 1984; Shafranovsky, 1987, 1990, 1991; Grishin et al., 2005; 他。千島列島の植生の植物地理学的特徴についての多少とも詳しい記載は我々が以前出版している(Barkalov, 2002)。ここではその全体的特徴をごく手短かに記載する。
 千島列島の鎖状に伸びた地形、海洋性気候、火山活動、地形の特徴が、この地域の植生を決定する基本的な要因である。列島南部(国後、色丹、択捉南部)には、暗針葉樹林(Abies, Picea林)や、針葉?広葉樹林が分布する。時に広葉樹林や明針葉樹林(Larix林)もある。択捉のVetrovoy地峡より北からシムシルまでは植生の森林型としてはダケカンバ林が主体である。千島列島北部ではツンドラ・草原群集と接して、ハイマツ、ハンノキ低木林が分布する。その際、被植面積としてはハンノキ林が優占する。南千島では、ダケカンバ林、ハイマツ・ハンノキ低木林は主に山岳上部の植生帯に特徴的である。
 V. A. Rozenberg, Y. I. Manjko, N. G. Vasiljev (1970) のデータによると、森林面積率は択捉では約80%、国後では約61%、色丹では約23%で、その他の島々(アトラソヴァ、シュムシュ、パラムシル、マトウア、ラシュア、ケトイ、シムシル、ウルップ)ではハイマツ・ハンノキ低木林も含めて約50%である。小千島列島の島々(ポロンスキー、ユーリ、タンフェリエヴァ、アヌーチナ他)や、大千島列島の小さい火山諸島(ライコケ、ウシシル諸島、チョールヌイエ-ブラチア諸島、ブロウトナ)には森林が見られない。千島列島の、多少とも大きい島々の大部分には、崖、海岸、草原、湿原タイプの植生が特徴的である。
 植生帯の分布についても本質的な違いがみられる。V. N. Vasiljev (1946)の大まかな表現によると、千島列島では植生帯は北の方向に、下の方から次々に水に隠れていく。植生の高度分布は多くの要因によって決まるが、千島ではそのうち大きなものとして山岳斜面の露出、火山活動、小気候(micro-climate)がある。植生帯の高度について書いた著者(Vasiljev, 1944; Korsunskaya, 1958; Vorobjev, 1963; Popov, 1963a; Manjko, Rozenberg, 1970)の多くが、千島列島においてそれが明瞭でないことを指摘している。ここでは、多く、植生帯の断続がみられる。択捉、国後島では、ハイマツ林がダケカンバ帯を突き抜けて、暗(Abies, Picea林)・明(落葉)針葉樹林(Larix林)・針葉?広葉樹林、時に広葉樹林と直接接する場合があり、そのような例が択捉の中央部で見られる。北千島の島々の山岳・ツンドラ植生は海岸段丘まで降下している。ここではかなり低いhypsometricな水準でもハイマツ林がみられる。
 暗(常緑;Abies, Picea林)針葉樹林は国後、択捉南部、色丹で高い植生帯を形成している。千島列島南部の暗針葉樹林の主な森林構成種は、Abies sachalinensis, Picea jezoensis, P. glehniiである。千島列島ではAbies, Piceaに、広葉樹が混じることがよくある。Picea jezoensisが森林構成樹である場所は国後にみられる(Manjko, 1983)。同様なPicea林が小さい断片として択捉島南部にもみられる。P. glehnii林は国後のみに分布し、主に硫気原に接した斜面や沼地化した低地(Golovnina火山の火口やSerebryanoe湖の周辺)に見られ、時に海岸の沿岸砂丘にもみられる。色丹や択捉南部にはP. glehniiの1本ずつまたは小群落が、Picea, Larix林内に見られる。
 Larix kamtschaticaからなるLarix林は色丹島の太平洋岸のMalaya Tserkovnaya湾や、択捉島中部のVetrovoj地峡とZalivnaya川の間にある。色丹島ではLarix林は高い海岸段丘の比較的小面積を占めている。林内には高さ1mまでのササの茂みが密生しており、時々Abies, P. glehnii, ダケカンバが孤立してみられる。
 広葉樹林は国後南部、択捉中央部にしか分布せず、オホーツク海側に偏る。森林構成種はQuercus crispula, Q. dentata, Ulmus laciniataである。D. P. Vorobjev (1963) のデータによると、Q. dentataの森林は国後のLagunnoe湖より南部のみにみられる。それらは通常まばらで、非常に限られた面積に生える。Ulmus japonicaが単一的に混じったUlmus laciniata林は国後の中央部のみに生育し、氾濫原(poima)の段丘上部、氾濫原段丘の上の水はけの良い場所、山の斜面のShleifに生える(Vorobjev, 1963; Popov, 1963b; Vasiljev, 1970)。
 南・中千島の植物の景観の背景としてダケカンバ(Betula ermanii)があり、ダケカンバがないのはマトゥア島や、小千島列島の小さい島々(ポロンスコヴォ、ゼリョーヌィ、ユーリ他)を含む小島のみである。千島列島でのダケカンバの分布北限はラシュア島を通っている。ダケカンバは、時にシラカバ(B. platyphylla)と混ざり合って、ダケカンバ林を形成する。それ以外にも針葉樹林や広葉樹林に混じって個々に、またはグループでみられ、焼け跡や伐採地では優占することが多い。
 千島列島のダケカンバ゙林は海岸段丘や山の斜面(標高800−900m)に生え、暗針葉樹林やハイマツ・ハンノキの茂みに隣接する。北方に向かってダケカンバの高度分布が低下する。通常、この林は密でなく、林下が密生したササになることが多い。
 ウルップ・シムシルでは、ダケカンバ林は時に匍匐性森林とされるハンノキ・ハイマツ林を除けば、主要な且つ唯一の森林である。ケトイ島にはデイアナ湾で比較的丈の低いダケカンバ林がみられた。ここでは、ダケカンバは山麓の下向き斜面に生えていた。ダケカンバ林の林下にはササの茂みが発達し、時に低木型のTaxus cuspidataがみられる。
 千島列島南部のすべての大きい島々では河川・流域の谷の中流・下流域にSalix udensis s.l.の狭い(幅5?10m)、時に断続的な地帯がみられる。多少とも丈の高い樹木状の茂みは場所により狭い地帯で見られ、パラムシル島(Utesny, Tukharka川の谷)でもみられる。北千島では通常茂み状であることが多い。ヤナギの茂みは主に海岸段丘の斜面下の源流域、湖岸や小さい流域岸などに生える。
 Alnus hirsutaからなるハンノキ林は千島列島南部では川や流域の氾濫原の湿地や湖岸に生える。時にそれらは地峡や崖の上部や土を含んだ水が付近にある山の斜面にも生える。
 千島列島では、景観の背景としてハイマツ(Pinus pumila)林、ハンノキ(Duschekia fruticosaD. maximowiczii)林がある。ハイマツ林がないのは小千島列島の島々と、アトラソヴァ、マトウアや多くの小さい火山島だけである。
色丹では、生態的にハイマツにかわってミヤマビャクシン(Juniperus sargentii)が分布し、シコタン、トマリ、ノトロや間の斜面を大群落として被っており、独特のミヤマビャクシン帯を形成している。ハンノキ林は千島列島の多少とも大きい島々と、北千島の大部分(パラムシル、アトラソヴァ、オネコタン、シャシコタン、マトウア)のほとんどすべてにみられ、ハイマツ林と比較して大きな面積を占めている。植物相の構成としては、ハンノキ・ハイマツ林の亜高山的構造は、森林型植生に似る。
南・中千島には、Sasa属に属する木化イネ科植物からなる茂みが広がっているが、これはいわゆるササ原である。ササ原は小さい島ーブロウトン、チルポイ、ブラットチルポエフ、にみられないだけである。ササ属の植物は森林内の空き地、伐採地、低〜中程度の山の疎林に、冬季の生育に必要な条件である、積雪量の多い条件下で生育する。ササ(Sasa kurilensis)の分布の北限はケトイ島を通る。
 森林、特にダケカンバ林やLarix林において、ササは林床を被う。森林内の密度や丈は土壌の養分だけでなく、日照によっても決まり、(暗針葉樹林のように)樹冠の密閉度が非常に高い場合、ササはまばらになるか、みられなくなる。さらに、A. I. Tolmachovによって指摘されたように(Vorobjev, 1963, p. 84)、ササの丈は各種のそれぞれの特徴によっても決まる。千島列島にはあちこちでササの純群落がみられるが、それにより、伐採や森林の火事の結果その地域の森林消滅が進む(Manjko, Rozenberg, 1970)。色丹ではササ原が数十から100ヘクタール以上までのかなりの面積を占めているが、これらの茂みは通常丈が低く多くは50〜80cmで、ダケカンバ林内でのみそれらは丈1.5mに達する。国後、択捉、ウルップではササの純群落は色丹よりかなり少なく、面積も小さいが、丈は高くなる。
 ツンドラ植生に含まれるBetula exilisの群落は、北千島のシュムシュ、パラムシルのみにみられる。これらの群落は川谷や、海岸段丘の湖岸にみられ、山の渓流上部の分水嶺のvypolozhennyiな地域にもみられる。森林のない、小さい火山島であるチルポイとブラットチルポエフにはSalix reiniiがみられ、水分がない条件で、raspadkiや植物の生えてきた溶岩流や山の斜面下部といったハンノキの茂みに特徴的な生育をしめす。風から守られた地域では、このヤナギの茂みは丈1.5mに達する。それらは多くの森林種にとって避難所的役割を担っている。色丹島では、山の斜面にDasiphora fruticosa, Eubotryoides grayana, Ilex crenata の茂みが広く分布する。
 多種草本の草原は草原・芝土土壌の発達した、水はけのよい地域にできる。千島列島ではこれらの草原は大きな島々の海岸のeolovyiな地形のところ、海岸砂丘、山の斜面から海岸段丘へ移行する境界の比較的傾斜のゆるい地域、また川沿いや流域のある斜面、時には、もっと高い場所の川谷にみられることもある。海岸段丘や山の斜面のハイマツ帯では、水はけの悪いことからCalamagrostis langsdorffiiを含むノガリヤス-多種草本草原が形成される。千島列島北部・中部では、ノガリヤスー多種草本草原はもっともよく分布するタイプの草原である。アトラソヴァ島ではC. langsdorffiiはかなりの部分、ハンノキの疎林に特徴的である。アライド火山の下から3分の1の開けた火山噴出物の斜面では、ノガリヤスがLeymus mollisに置き換わり、ここではLeymus−多種草本草原がかなりの面積にわたってみられる。一緒に生える種の構成はノガリヤスー多種草本草原と同様であるが、貧弱さが目立つ。断片的なLeymus-多種草本草原はライコケ、ウシシル、チルポイの各島にもみられる。
 千島列島の高茎草本群落は丈2-3mに達する大きい草本によって構成される。高茎草本の茂みは豊富な腐植土壌があり、多くの場合は水流のあるところに生える。その発達にもっとも望ましい場所は谷、川・流域の河口、海岸沿いの段丘の斜面下部、湿った崖下の場所や滝の付近である。河川・流域沿いでは高茎草本は標高400ー500mまで進出し、場所によっては標高1200mまでのダケカンバ帯・亜高山帯にみられることもある。高茎草本の種構成や構造は、標高によっても、南から北に行くにしたがっても変わる。
 フキ(Petasites japonicus)の茂みは非常にありふれており、ブラットチルポエフ、ウルップ、択捉、国後、色丹によく発達し、中千島の島々(マトゥア、ラシュア、ウシシル、シムシルなど)に特徴的である。北千島(パラムシル、オネコタン、シャシコタン)では、フキの小さい群落が主にオホーツク海岸の河口にみられる。
 Reynoutria sachalinensis が優占する群落は、南千島にしか分布しない。丈は大きいもので3mになり、湧水地に生え、海岸の崖や斜面と海岸植生との間の幅の狭い帯状に生育し、時に、低い海岸段丘や海岸近くの流域付近に生える。
 千島列島にはオニシモツケFilipendula camtschaticaが優占する群落が広く認められる。この群落は河川・流域の谷、ハンノキの疎林、海岸段丘の斜面下部、さらに亜高山帯の窪んだ地形の所に小群落として生育する。
 北・中千島の高山帯には低木ツンドラ、低木−草原ツンドラ、雪田、高山草地がみられる。湿った気候のため、ここではコケ類が地衣類を上回る。この植生帯では低木植生が優占する。山岳ツンドラ・低木林の中ではprostratny(匍匐性?)な常緑低木が重要な地位を占める。ツツジ科のLoiseleuria procumbens, Cassiope lycopodioides, Phyllodoce aleutica, Bryanthus gmelinii, Arcteria nana, Empetrum sibiricumや、夏緑低木であるSalix kurilensis, S. hidaka-montana, S arctica s.l., S. chamissonisや、Vaccinium uliginosum、である。edificatorの種の群落としては、ツツジ科、ガンコウラン科の種があり、文献ではしばしばvereschatnikと呼ばれる(Vasiljev, 1946; Vorobjev, 1963他)。
 千島列島を北から南にいくと、亜高山帯の上限が標高1600mまで上がっていき、高山帯はほとんど無くなる。山岳ツンドラは小さい島状に亜高山帯の上部に分布し、また噴石原や山の斜面の小さい雪田近くにもみられ、ダケカンバ帯も含まれる。南千島の島々では、低木群落は北千島の高山帯とほぼ同じ種であるが、これらの群落には、この植生帯の下方に特徴的なEmpetrum sibiricumLoiseleuria procumbensが優占することが多い。時に、主に択捉で、Dryas ajanensis, Gaultheria miqueliana, Bryanthus gmeliniiの群落のある小さい地域がある。チャチャ岳(国後)のカルデラの火山噴石上にLoiseleuria procumbens, Phyllodoce caeruleaの群落がみられる。
 山や海岸・河岸段丘の斜面に豊富に雪田があるため、北・中千島では雪田植物の植生が分布するのに良い環境となっている。地形が低く雪が溜まりやすい場所では、低木群落の中でPhyllodoce aleuticaが優占する。上部のくぼみでは、解けた雪田近くに雪に接したまばらな草地が発達する。Juncus beringensis, Luzula piperi, Saxifraga merkii, Primula cuneifolia, Pedicularis oederiを含む草地である。あまり大きくない雪田が択捉・国後の山々にみられる。択捉では雪田付近にFauria crista-galli, Scirpus maximowicziiからなる独特な群落が見られる。
 千島列島の水生植物には海水・淡水群落がある。海水の植物の中で最もよくみられるのがPhyllospadix iwatensisで、南千島では崖や石の多い場所に大群落で生え、干潮時、露出する。海生植物のその他のものではZosteraが普通にみられる。淡水ー汽水植生は、千島列島のすべての大きい島々で特徴的である。マトゥア島にはそれらはあまり生育していない。
 湿原群落は千島列島に広く分布している。これらの群落は湖岸の低地や河川・流域の下流周辺、海岸段丘の低地、まれに山中にもみられる。ここでは低木ースゲーコケ、スゲーコケ、草地湿原がみられる。南千島の湿原植生は、中・北千島よりも目立って豊かである。
 千島列島の海岸の沿岸帯には、Rosa rugosaの茂みや、好塩性植物のLeymus mollis, Mertensia maritima, Lathyrus japonicus, Honckenya oblongifolia, Arctopoa eminens, Artemisia stelleriana, Senecio pseudoarnicaの群落が生育する。南千島においてのみ、これらの群落に混じってCarex pumila, Calystegia soldanella, Glaux maritimaがみられ、南千島で普通にみられるChorisis repens, Carex macrocephalaはずっと距離をおいて北千島のパラムシル、シュムシュ、アトラソヴァにあらわれる。
 海岸草原は、砂浜、沿岸の砂累・砂丘に細い帯状に発達する。それらは主にLeymus mollis, 時にArctopoa eminensまたはその両方によって構成され、他の好塩性群落や多種草原の種と複合的に構成される。
 崖、崖の路頭、岩錐は千島列島には海岸から高山にまである。海岸の崖にはPuccinellia kurilensis, Arctanthemum arcticum, Saxifraga bracteata, Cochlearia officinalis, Draba borealis, Stellaria ruscifolia, Rhodiola integrifolia, Potentilla megalantha, Nesodaraba grandisがみられる。高山に特徴的な、岩に生育する植物のかなり大きいグループ, Oxytropis retusa, Astragalus japonicus, Artemisia glomerata, A. Schmidtiana, Erigeron thunbergii, Leontopodium kurilensis, Crepis hokkaidoensis, Pulsatilla taraoi, Aquilegia flabellata, Stellaria ruscifolia, Calamagrostis urelythra が 海岸の崖や石がちの斜面にみられる。
 千島列島独特な特徴は、活火山・死火山の火山錐や、それに付随する火山起源の土壌−溶岩、噴石、火山灰、その他の火砕的岩質である。火山起源の基層には開かれた植物群落が構成され、様々な発達段階の群落や、決まった植生帯がはっきりしない群落もよくみられる。火山の噴石平野のまばらな植生は、草本・低木状の群落で、山岳ツンドラの構成に近い。千島列島にもっとも広く分布するパイオニア植物としては、Carex ktausipali, C. flavocuspis, Poa malacantha, Saxifraga merkii, S. purpurascens, Pennellianthus frutescens, Campanula lasiocarpa, Arcterica nana, Loiseleuria procumbens, Rhododendron camtschaticum, Papaver alboroseum, Artemisia glomerataが挙げられる。


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